テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去出題問題

 平成16年 午後2 問2

最終更新日 2006/02/28
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Tomのネットワーク勉強ノート
 過去問(午後)
   テクニカルエンジニア (ネットワーク)過去問(午後)
     テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去問 平成16年 午後2 問2

問2

コンテンツ配信システムの構築に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。

Y社は,東京と大阪の2か所のインターネットデータセンタ(以下,IDCという)
を運営するサービス事業者である。Y社では,顧客のコンピュータシステムを預かり,
稼働監視や運用管理などを行うハウジングサービスを提供している。
このたび,Y社では,事業が軌道に乗ってきたので,事業拡大の方策を検討するこ
とにした。近年,ADSLやFTTHなどのブロードバンドサービスが急速に普及してき
た。これに伴い,今後,映像コンテンツ配信サービス(以下,映像配信サービスとい
う)のビジネスが期待できるという判断から,Y社ではインターネットを利用した映
像配信サービスの事業化を決定した。

〔システムの方向付け〕
事業化に当たって,システム化を検討するように指示されたH課長は,ネットワー
ク構築担当のI係長と,システムの方向付けについて打合せを行つた。次は,システ
ムの方向付けに関するH課長とI係長の会話である。
H課長:今回,新事業としてインターネットを利用した映像配信サービスを開始する
     ことになった。映像配信サービスの提供は,図1に示すコンテンツ配信シス
     テムの構成で行うことができるのだろうか。

    
    IX:Internet Exchange
    PC:パソコン
    注 ISP事業者A社〜X社のネットワークを,ISP-A〜ISP-Xと表す。

    図1 H課長が考えたコンテンツ配信システムの構成

I係長:映像配信の方法には,【 a 】型とストリーミング型があります。当社で
     は,ストリーミング型の映像配信サービスを計画しています。図1の構成で
     は,映像情報を含んだパケットの遅延,損失及びジッタによって,映像の乱
     れ,瞬間的な停止,音声の途切れなどが発生し,サービス品質が低下します。
     これらを防止するためには, トラフィック制御やネットワーク構成面の配慮
     が必要になります。
H課長:トラフィック制御の仕組みには,どのようなものがあるのだろうか。
I係長:IPネットワークでのトラフィック制御の標準技術に,RSVP (Resource
    Reservation Protocol)とDiffserv(Differentiated Services)があります。図2
    に,RSVPによる帯域予約のためのメッセージの流れを示します。RSVPは,
    図2に示すメッセージで経路上の各ルータに帯域を予約し,ルータによって
    パケット転送帯域の制御が行われるようにします。RSVPでは,まずサーバ
    がPCあてにPathメッセージを定期的に送信します。Pathメッセージを受信
    したPCは,資源予約のためのResvメッセージをサーバあてに送信します。
    Resvメッセージは,Pathメッセージの転送経路を逆にたどるように転送され
    ます。これによって,帯域を確保するための情報が経路上の各ルータに設定
    され,【 b 】から送信される映像情報を含んだパケットが,予約された
    帯域で転送されることになります。

    
    図2 RSVPによる帯域予約のためのメッセージの流れ

H課長:分かった。それではDiffservはどのような方式なのかな。
I係長:Diffservは,RSVPのような帯域制御ではなく,【 c 】の標準方式です。
    図3にDiffservを利用したネットワークの構成例を示します。【 c 】は,
    IPヘッダのTOSフィールドを再定義したDSフィールドのビット情報に基づ
    いて行われます。このビット情報に対する制御ポリシは,任意に設定できる
    ことになっています。同一の制御ポリシをもつネットワークは,DSドメイン
    と呼ばれます。
    
    注 DS-1,DS-2は,異なった制御ポリシをもつISPを表す。

    図3 Diffservを利用したネットワークの構成例
H課長:今回検討するシステムに, これらの方式を適用できるのだろうか。
I係長:RSVPでは,各ルータが,転送するパケットに対して帯域を割り当てる制御
    を行うことになるので,ルータに加わる負荷の問題があります。その問題が
    あるので,RSVPはISPのような大規模ネットワークヘの適用が難しいと言
    われていて,サービスとして提供されていません。
H課長:その点について,Diffservはどうなのか。
I係長:Diffservを利用できるISPが少ないので,残念ながらこの方式も利用するこ
    とは難しいと思います。仮に,各ISPでDiffservを利用できるようになって
    いても,転送されるパケットが複数のISPを経由する場合には,ISP間での
    トラフィック制御に関するポリシの統一が必要になってしまいます。
H課長:それでは,インターネットを利用して,高品質の映像配信サービスを提供す
    ることは無理なのだろうか。
I係長:いいえ,ほかの方法を使えば無理ではありません。RSVPやDiffservの利用
    による提供は困難ですが,コンテンツ配信ネットワーク(以下,CDNとい
    う)を構築すれば,サービス品質が低下する要因を少なくできるので,高品
    質の映像配信サービスを提供できます。
H課長:そうか。CDNについて,具体的に説明してくれないか。

〔CDNの目的と仕組み〕
CDNの目的と仕組みについて, I係長がH課長に説明した内容は,次のとおりであ
る。
CDNは,VOD(Video On Demand)のようなストリーミング型の映像配信サービス
を,インターネットを利用して,高いサービス品質で提供するためのネットワークで
ある。インターネットを経由してコンテンツを配信し,視聴者がPCでリアルタイム
に再生する場合, トラフィックや負荷の集中によってサービス品質が低下することが
ある。その要因となるのは,ルータ,スイッチングハブ,サーバ,回線などのネット
ワーク構成要素である。CDNを利用すれば,これらが要因となって発生するサービス
品質の低下を抑止できる。
CDNは,次の二つの要素で構成される。

@ オリジンサーバ
A キャッシュサーバ
B コンテンツ複製ネットワーク

オリジンサーバは,オリジナルコンテンツの登録,管理などを行い,コンテンツ複
製ネットワークを使用して,キャッシュサーバにコンテンツを複製する機能をもつ。
キャッシュサーバは,オリジンサーバが複製したコンテンツを保管し,視聴者にコン
テンツを配信する機能をもつ。コンテンツ複製ネットワークは,オリジンサーバに登
録されているコンテンツをキャッシュサーバに複製するために使用される。コンテン
ツは,キャッシュサーバから配信されるので,(ア)キャッシュサーバが設置された
ISPの利用者に対して,高品質の映像配信サービスの提供が可能になる。


H課長:CDNの目的と仕組みは理解できた。映像配信サービスを提供するためには,
    CDNを利用した方がよさそうなので,CDNを利用したコンテンツ配信シス
    テムを具体化させてくれないか。

H課長の指示を受けて, I係長は,コンテンツ配信システムの構成,コンテンツ複
製方式,映像配信サービスの提供方式などをまとめた。

〔コンテンツ配信システムの構成〕
図4に,コンテンツ配信システムの構成を示す。


図4 コンテンツ配信システムの構成

I係長がH課長に説明したコンテンツ配信システムの構成は,次のとおりである。
オリジンサーバは,Y社のIDCの中で最も充実した設備をもつ東京IDCに設置する。
東京IDCは,ISP事業者であるA社とB社のバックボーンネットワークのコアルータ
に直接接続されている。バックボーンネットワークとは,ISPが所有するPOP(Point 
Of Presence)やNOC(Network Operation Center)などを広帯域の回線で接続するネ
ットワークである。キャッシュサーバは,東京IDCのほかに,Y社が所有する大阪
IDCにも設置する。キャッシュサーバを多く設置することによって,高品質な映像配
信サービスを利用できる視聴者の増加につながる。そこで,そのほかに全国8か所の
他社IDCのハウジングサービスも利用して,キヤッシュサーバを設置することにした。
利用するIDCの選定に当たっては,サービス品質の向上,安全対策及び高品質なサー
ビス提供エリアの拡大を目的として,IDCがもつ設備に加えて,ISPへの接続形態も
併せて調査した。

H課長:当社のIDCを有効活用できるので,良い案だと思うよ。ところで,Webサー
    バは,どのような働きをするのかな。
I係長:Webサーバでは,課金管理,会員管理,キャッシュサーバの選択,サービス
    メニューの表示などを行います。
H課長:分かった。オリジンサーバとWebサーバは,それぞれ1台でよいのか。
I係長:オリジンサーバには,安全対策と,コンテンツの複製量やサービスの増加に
    対して柔軟に対応できるような構成が必要です。サービスを利用するときに
    は,PCがWebサーバに接続されますので,Webサーバにはオリジンサーバ
    と同様の安全対策と拡張性の確保が必要になります。これらの条件を基に,
    図5に示すオリジンサーバとWebサーバの構成を考えました。サービスの開
    始時は,オリジンサーバ,Webサーバとも,それぞれ2台構成がよいと考え
    ています。


図5 オリジンサーバとWebサーバの構成

H課長:キャッシュサーバの構成は,どのように考えているのかな。
I係長:キャッシュサーバも,安全対策と拡張性の確保を考慮して,図5と同様に各
    サーバとRAID装置をFCSWで接続するネットワークを導入するとともに, 
    LBによって負荷分散させる構成を考えています。このFCSWで構成される
    ネットワークは,【 d 】と呼ばれます。サービス開始時は,各IDCに
    設置するキャッシュサーバも,2台構成にするのがよいと思います。
H課長:分かった。

〔コンテンツ複製方式〕
I係長が説明したコンテンツ複製方式は,次のとおりである。
オリジンサーバからキャッシュサーバにコンテンツを複製する際には,IPマルチキ
ャスト(以下,マルチキャストという)通信を利用する方式が考えられる。マルチキ
ャスト通信は1対多で行われる通信であり,マルチキャスト【 e 】のメンバと
なっているホストに対して,同時に配信する方式である。この方式によって,キャッ
シュサーバに効率良くコンテンツを複製できる。しかし,現状では,必ずしもISPが
マルテキャスト通信サービスを提供しているわけではないので,ISP経由で複製する
には,特定の相手と1対1で送受信するユニキャスト通信で行う必要がある。そのた
めには,オリジンサーバがそれぞれのキャッシュサーバに対して,個別にコンテンツ
を転送しなければならない。各IDCのLANは,100Mビット/秒でISPに接続され
ている。ネットワークの遅延,プロトコルオーバヘッドの影響,及びサーバの能力を
考慮して(イ)実効転送速度をある値に仮定したとき,1台のキャッシュサーバに3×
10^9バイトのコンテンツを複製する時間は,計算上10分に抑えられる。したがって,
10か所に設置するキャッシュサーバに複製する場合でも,運用上問題にならない。こ
れらの理由から,ISPのネットワークを使用して,ユニキャスト通信によるファイル
転送処理によって,コンテンツを複製する。

〔キャッシュサーバの選択方式〕
今回検討したコンテンツ配信システムは,VODのような映像配信サービスを提供す
るためのものである。コンテンツはキャッシュサーバによって配信されるので,高品
質の映像配信サービスを提供するためには,PCに配信するキャッシュサーバの選択方
式が重要になる。
次は,キャッシュサーバの選択方式についての,H課長とI係長の会話である。

H課長:どのようなキャッシュサーバの選択方式があるのかな。
I係長:IPアドレスによる選択方式と,パケット転送時間の計測による選択方式があ
    ります。
H課長:詳しく説明してくれないか。
I係長:キャッシュサーバの選択は,Webサーバで行わせます。映像配信サービスを
    利用するときに視聴者が使用するPCは,最初にWebサーバと通信を行いま
    す。IPアドレスによる選択は,グローバルIPアドレスを管理する組織情報
    を利用して行われます。PCからサービスを要求されたWebサーバは,受信
    したパケットの送信元のグローバルIPアドレスを基に,サービスの提供に適
    したキャッシュサーバを選択します。一方,パケット転送時間の計測による
    選択は,PCが計測したパケット転送時間を基に行われます。PCからサービ
    スを要求されたWebサーバは,PCに対してキャッシュサーバとの間のパケ
    ット転送時間の計測を指示し,PCが計測した結果を基に,最適なキャッシュ
    サーバを選択します。
H課長:今回は,どちらの方式を採用する予定なのか。
I係長:IPアドレスによる選択方式では,キャッシュサーバが設置されていないISP
    の利用者に対して,サービスの提供に最適なキャッシュサーバを選択するこ
    とができないという問題があります。一方,パケット転送時間の計測による
    選択方式では,視聴者がどのISPの利用者であっても,(ウ)最も品質の高い
    映像配信サービスを提供できると予測される
キャッシュサーバを選択できる
    利点があります。ですから,後者の方式を採用する予定です。

〔映像配信サービスの提供方式〕
図6に,視聴者への映像配信サービスの提供方式を示す。ただし,図6には,キャ
ッシュサーバの選択方式は記述されていない。


図6 視聴者への映像配信サービスの提供方式

I係長が図6に基づいて説明した内容は,次のとおりである。
視聴者が映像配信サービスを利用するときに,PCでは,@を送信し,Cによって
WebサーバのグローバルIPアドレスを得る。次に,Webサーバに対して,Dを送信
する。Webサーバは,Dを受け付けると,サービスメニューをPCに表示させるとと
もに,キャッシュサーバとの間のパケット転送時間を計測するための【 f 】を,
PCに送信する。PCは,受信した【 f 】を実行させて,(エ)キャッシュサーバ
との間の実効転送速度を計測する
。PCは,計測後に結果をWebサーバに送信する。
Webサーバは,PCが計測した結果の中で,実効転送速度が最大のキャッシュサーバ
をコンテンツの配信元に選択し,そのキャッシュサーバのグローバルIPアドレスを
PCに送信する。視聴者が,PCに表示されたメニューの中からコンテンツを選択する
と,PCは,通知されたグローバルIPアドレスをもつキャッシュサーバにFを送信し, 
Gを受ける。

H課長はI係長の説明を聞き,CDNを利用したコンテンツ配信システムを構築する
ことによって,高品質の映像配信サービスを提供できると判断し,この案で進めるこ
とにした。


設問1

本文中の【 a 】〜【 f 】に入れる適切な宇句を答えよ。

設問2

トラフィック制御技術に関する次の問いに答えよ。

(1)RSVPの帯域予約は,Resvメッセージだけではなく,Pathメッセージも利用
  される仕様になっている。その理由を,35字以内で述べよ。

(2)図2で,ルータの能力が同等とすると,負荷の問題が最初に発生するのは,
  コアルータと考えられる。その理由を,25字以内で述べよ。

(3)Diffservが図3の構成で運用される場合,境界ルータでDSフィールドのビッ
  ト情報の変換が必要になる。その理由を,40字以内で述べよ。

設問3

〔CDNの目的と仕組み〕に関する次の問いに答えよ。

(1)インターネットを利用した,VOD以外のストリーミング型の映像配信サービ
  スを,15字以内で述べよ。

(2)図1で,ISP-Dの利用者が映像配信サービスを受ける場合に,ISP-Aの利用
  者と比較して,サービス品質が低下する。その要因となるネットワークの構成
  要素を三つ挙げ,それぞれ15字以内で述べよ。

(3)本文中の下線(ア)の理由を,パケットの流れに着目して,40字以内で述ベ
  よ。

設問4

今回構築するコンテンツ配信システムに関する次の問いに答えよ。

(1)他社DCの選定時に調査した内容を二つ挙げ,それぞれ25字以内で述べよ。

(2)本文中の下線(イ)で仮定した実効転送速度を求めよ。ただし,本文中に記
  述された条件以外は,すべて無視できるものとする。

(3)IPアドレスによるキャッシュサーバの選択は,どのような方法で行われるか。
  キャッシュサーバの設置場所に着目して,70字以内で具体的に述べよ。

(4)本文中の下線(ウ)では,なぜ予測としたか。その理由を,40字以内で述ベ
  よ。

(5)本文中の下線(エ)のために,PCが入手しなければならないキャッシュサー
  バに関する情報は何か。20字以内で述べよ。また,本方式の計測結果には,IP 
  アドレスによる選択方式で得られない,サービス品質を低下させる要因が含ま
  れている。その要因を二つ挙げ,30字以内で述べよ。

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