テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去出題問題

 平成10年 午後2 問2

最終更新日 2004/01/24
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Tomのネットワーク勉強ノート
 過去問(午後)
   テクニカルエンジニア (ネットワーク)過去問(午後)
     テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去問 平成10年 午後2 問2

問2

WWWによる情報提供システムの再構築に関する次の記述を読んで、設問1〜5に答えよ。

R社では、WWWを用いた情報提供代行サービスを1年前から開始し、現在約100社の会
員企業に提供している。WWWコンテンツ(以下、コンテンツという)の作成と運用をイン
ターネットサービスプロバイダ(以下、ISPという)に接続された情報提供システム(以下、
Rシステムという。図1参照)で行っている。昨今、インターネットの利用増加によって、
R社の3台のWWWサーバ(以下、W3Sという)へのアクセス回数は急激に増えている。中
でも、会員企業であるP社が販売しているソフトウェアパッケージに関する案内やS社のソ
フトウェアサポートなどへのアクセス回数に顕著な増加が見られるようになった。一方、R
システムヘのアクセス回数の増加に比例して、会員企業及びそのユーザからのクレームも増
えてきている。具体的には、"P社のホームページにアクセスできない"、"S社の修正バッチ
ファイルのダウンロードに以前よりも時間がかかる"などが寄せられている。ユーザから会
員企業へのクレームは、情報提供代行サービスをしているR社にとっても重要な経営問題で
ある。そこで、R社の新人H君は、次のステップに従って、Rシステムの問題点の解決を行
った。

図1 現在のR社の情報提供システムの構成

[調査]

(1)現在のRシステムの機器構成
Rシステムは、10BASE-Tのスイッチングハブ2台、ルータ1台、W3S3台、DNS
サーバ2台で構成されている。サーバ類はすべてUNIXベースのワークステーション
を用いている。また、ファイアウォールを介して、コンテンツ作成やRシステムの運
用・保守などに用いるパソコン、メールサーバ、テスト用W3Sが接続されている。

(2)情報提供代行サービスの運用状況
過去1年間のRシステムの運用記録を表1にまとめた。情報提供代行サービスの中
断件数、中断時間ともに大きいので、これを改善するには、@W3Sの高信頼化、A専
用線とISPの二重化、ネットワーク機器の故障対策、B電源の瞬断対策(【 a 】の導
入)などの信頼性向上対策が必要であると考えた。

表1 情報提供代行サービスの中断件数と中断時間

原 因 中断件数 中断時間/件
専用線障害、ISP障害 平均2時間
ルータなどのネットワーク機器の故障 4 平均3時間
近くへの落雷による電源の瞬断 1 4時間
入居しているビルの電源設備の法定点検 平均6時間
W3Sの故障 2 平均3時間
W3Sのファイルバックアップ 12 平均30分

注:W3Sにテスト用W3Sは含まない

(3)W3Sの負荷及びアクセスの状況
R社では、会員企業に対して契約時点で情報提供に必要なコンテンツファイル(以
下、ファイルという)のディスク容量を申告しでもらい、偏らないように三つのW3S
(図1のW3S1〜W3S3)にファイルを分散配置している。なお、ファイルは各会員企業
ごとにまとめて同一のW3Sに配置している。しかし、これら三つのW3Sの負荷の実態
は分かっていないので、@W3Sの負荷、AW3Sへのインターネットからのアクセス状
況について調査することにした。まず、W3Sの負荷は、CPU使用率を測定して調べた。
W3Sの負荷状況を調査した日には、P社などクレームが多い会員企業のファイルを配
置しているW3S2のCPU使用率がピーク時に80〜90%と高かった。一方、クレームが
少ない会員企業のファイルを配置してあるW3S1やW3S3のCPU使用率は10〜20%と低
かった。このアンバランスのために、W3S1、W3S3に蓄積されている会員企業のファ
イルと比較して、W3S2のファイルヘのアクセス時間が【 b 】なったり、転送の中断
が多くなったりすると想定される。

表2 W3S2のファイルヘのピーク時1時間当たりのアクセス状況

ファイル名 ファイルサイズ
(kバイト)
アクセス回数 エラー回数 転送量
(kバイト)
P社のホームページ 0.2 4,398 175 845
P社のロゴ 25 4,073 177 97,400
S社のソフトサポート 3 3,733 159 10,722
P社の製品紹介 35 3,103 137 103,810
S社の修正バッチファイル 200 2,846 278 513,600
S社の新製品紹介 6 2,584 118 14,796
S社のロゴ 10 2,552 124 24,280
S社のホームページ 7 2,451 112 16,373
(以下、省略) 3 2,395 108 6,861
  2 2,299 100 4,398
  75 2,132 99 152,475
  0.9 2,085 89 1,796
  4 2,018 95 7,962
  0.9 1,953 66 1,698
  8 1,923 98 14,600
  0.7 1,719 54 1,166
  6 1,642 53 9,534
  0.4 1,569 48 608
  3 1,527 54 4,419
  0.6 1,444 57 832
  6 1,353 44 7,854
  4 1,280 48 4,848
  25 1,153 41 27,800
  250 1,048 110 234,500
  1,100 1,013 120 982,300
合 計 - 54,293 2,584 2,245,477

注1:アクセス回数が1,000個以上のファイルだけを示す。
なお、アクセス回数にはエラー(転送中タイムアウトとユーザによる中断を含む)回数を含む。
注2:1kバイトは1,000バイトとする。

次に、W3S2のファイルヘのアクセス状況について、サービス内部に保存されている
アクセスログを用いて調べた。このログには、ファイルへのアクセス時刻とユーザの
IPアドレスがすべて記録されている。H君は、同じ日のピーク時1時間当たりのアク
セス状況をファイルごとに集計し、表2にまとめた。
H君はW3S2の会員企業に関するクレームが多い理由を、@ネットワーク(専用線、
ルータスイッチングハブなどの機器)の性能に起因する問題、Aサーバに起因する
問題に分けて考えることにした。

[ネットワークの性能評価]

(1)スイッチングハブの性能
蓄積転送をしない場合の性能は、単位時間(1秒間)に転送できる最大パケット数
で表わされる。10BASE-Tでは、CSMA/CDの【 c 】を防ぐため、一度パケットを
送り出すと、パケット自体の転送時間とLANケーブル上での往復伝搬遅延時間を合計
した時間内に、次のパケットを送り始めることができない。最小のパケット長は、64
バイトのデータ部分と先頭にある8バイトの【 d 】から構成されるので、72バイト
である。したがって、1パケットの転送時間は【 e 】マイクロ秒となる。一方、往
復伝搬遅延時間は最大9.6マイクロ秒なので、スイッチングハブの性能は【 f 】パケ
ット/秒となる。したがって、実効速度は約7.6Mビット/秒以上を確保できる。

(2)ルータの性能
10BASE-Tを接続した環境で実測したスループットは、最大6.1Mビット/秒であ
る。

(3)W3S2の情報転送速度
ピーク時のW3S2から外部への情報転送速度は、平均5.3Mビット/秒である。

(4)専用線の速度
ISPと接続している専用線の回線速度は6Mビット/秒である。
H君は、(1)〜(4)を基に実効速度の点から考察し、ネットワークの性能に問題ないと
いう結論に達した。そこで、上司に報告したところ、“ネットワークの性能については、
もっと直感的に判断できるのではないか” と指摘を受けた。

[サーバの性能改善]

サーバ負荷のアンバランス対策には、ファイルを別のW3Sに移動してW3S2の負荷を低
減することが考えられる。しかし、今回の調査で問題になったS社のファイルを別の
W3Sに移動しても、ほかの会員企業で将来同様な問題が起きることが予想される。一方、
サーバに用いる磁気ディスク装置が安価になっていることから、会員企業のファイルを
一つのW3Sに限るのではなく、すべてのW3Sに同じファイルを配置してアクセスを振り
分ける方が負荷分散及び高信頼化の点で効果的であると考えた。H君が調査したところ、
図2の振分けサーバ方式があることが分かった。

複数のサーバにアクセスを振り分ける機能をもったサーバ(以下、振分けサーバと
いう)は、次の手順で最適なW3Sにアクセスを振り分ける。
@ ユーザのWWWブラウザは、会員企業のURLに対応する振分けサーバのIPアドレ
  スを受け取る。
A ユーザのWWWブラウザは、【 g 】というプロトコルで振分けサーバにアクセ
  スする。
B 振分けサーバは、各W3SのCPU使用率を1分ごとに参照して、振分け先のW3S
  (例えば、W3S3とする)を決め、そのW3Sにユーザが参照するURLを転送する。
C W3S3がユーザに応答を返す。このとき、W3S3からの送信元IPアドレスとして、
  振分けサーバのIPアドレスを返す。このため、ユーザのWWWブラウザは、W3S3に接
  続されていることに気付かずに済む。

図2 振分けサーバ方式

H君は、振分けサーバ方式の評価用ソフトを入手し、実際に使って効果をみることに
した。評価テストでは、ピーク時の現象を再現するためにW3Sへのアクセスパケットを
シミュレーションする必要がある。具体的には、表2のファイルを対象にして、それら
のファイルサイズを5種類の代表値にまとめ、ピーク時のそれぞれのアクセス頻度を求
め、表3のアクセスモデルを作成した。
なお、アクセス頻度の計算に当たっては百分率を用い、小数第1位を四捨五入した。

表3 アクセスモデル

  ファイルサイズ(バイト)  代表値(バイト) アクセス頻度(%)
1 0以上〜1k未満 500 【 h 】
2 1k以上〜10k未満 5k 43
3 10k以上〜100k未満 50k 【 i 】
4 100k以上〜1M未満 500k 7
5 1M以上〜10M未満 5M 【 j 】

注:1Mバイトは、1,000kバイトとする。

テストでは、情報提供代行サービスに用いているものと同等性能のW3Sとアクセスパ
ケット発生用のワークステーションを用意した。W3Sは、表3に対応する5種類のサイ
ズの擬似ファイルをもち、ワークステーションからのアクセスパケットの要求に応じて
転送する。ワークステーションのアクセスパケットは表3のアクセス頻度に従ってラン
ダムに発生する。そのときのW3SのCPU使用率を測定した。
まず、現行方式について1台のW3Sとアクセスパケット発生用のワークステーション
1台をスイッチングハブに接続してテストした。次に振分けサーバ機能を検証するため
に、2台のW3Sをスイッチングハブに追加してテストした。これらの結果は、次のとお
りであった。

(1)現行方式(振分けサーバを使わない場合)
現行方式のCPU使用率の変化を図3に示す。図3から、CPU使用率が80%を超える現
象が出てきた。



図3 W3Sが1台のときのCPU使用率

(2)振分けサーバ兼用方式
W3S1は振分けサーバ機能とWWWサーバ機能の両方を兼用し、ほかの2台(W3S2、
W3S3)はWWWサーバ機能専用にしてテストした。このときの各W3SのCPU使用率の変
化を図4に示す。



図4 振分けサーバ兼用方式のCPU使用率

(3)振分けサーバ専用方式
W3S1を振分けサーバ機能専用にし、ほかの2台(W3S2、W3S3)をWWWサーバ機
能専用にしてテストした。このときの各W3SのCPU使用率の変化を図5に示す。



図5 振分けサーバ専用方式のCPU使用率

これらのテストから、振分けサーバ機能によって、W3Sの負荷状況に応じてアクセス
を複数のW3Sに分散させることができ、CPU使用率を低く抑えられることが確認できた。
H君は、振分けサーバ方式のソフトウェアを購入し、振分けサーバ兼用方式を採用する
ことにした。

[複数ISPへの接続方法の検討]

H君は、専用線やISPの障害による情報提供代行サービスの中断時間を短くする方法を
検討した。信頼性向上のためには専用線やISPの二重化が適していることから、図6に
示すようにISP2と新たに契約し、異なる通信事業者の専用線で接続することにした。



図6 二重化ネットワーク案

検討結果は、次の@〜Dのとおりであった。
@ W3S1は振分けサーバ機能とWWWサーバ機能を兼用する。
A R社のプライマリDNS(DNS1)のIPアドレスは現在のままとし、セカンダリDNS
  (DNS2)には、ISP2のIPアドレスを割り当て、JPNIC(Japan Network Information
  Center)に変更申請する。これによって、外部からDNS1にアクセスしても応答がな
  いとき、DNS2にアクセスしてW3S1のIPアドレスが得られる。
B NAT (Network Address Translator)は、内部アドレスと公開アドレスの二つ
  の異なるIPアドレスを1対1に対応づける機能をもった装置であり、一方のIPアドレ
  スのパケットを受信すると、他方のIPアドレスに付け替え、そのパケットを通過させ
  る。NAT1、NAT2を用いて、それぞれ、ISP1でのW3Sの公開アドレス及びISP2での
  W3Sの公開アドレスを、R社のW3Sの内部アドレスに変換する。これによって、ISP1、
  ISP2のいずれを経由しても外部からW3Sへ着信できる。
CISP1は常時使用、ISP2はバックアップ用とする。つまり、ISP1の障害やルータ1、
  DNS1が故障の場合は、ISP1からISP2経由に切り替わる。
DISP2の専用線の速度は、経済性から1.5Mビット/秒とする。

〔検討結果に対する上司の指示]

H君が、以上の検討結果を報告書にまとめ上司に報告したところ、次の指摘があった。

(1)H君の対処策はサーバの性能改善とネットワークの信頼性向上であるが、これでユ
  ーザからのクレームが本当に減るのか。W3S2の性能改善にとらわれ過ぎてはいないか。

(2)図6に示す二重化ネットワーク案のRシステムでは、現在のシステムに比較して運
  用面が大きく変わることから、運用ガイドラインを早急に見直すこと。

(3)3台のW3Sを二つのISP(ISP1とISP2)に分けて接続し、ISP2も常時使うネットワ
  ーク負荷分散案(図7)が考えられる。この案も検討すること。



図7 ネットワーク負荷分散案

[図7の検討結果]

H君が図7の案について検討した結果は、次の@〜Dのとおりであった。

@ W3S1は振分けサーバ機能とWWWサーバ機能を兼用する。
A DNS1とDNS2のIPアドレスの設定は図6の案と同一とする。
B W3S1とW3S2はISP1と4.5Mビット/秒の専用線で接続し、W3S3はISP2と1.5Mビット/秒の専用線で接続する。
C ユーザのWWWブラウザからのアクセスは、ISP1が正常なときは振分けサーバ兼用
  のW3S1に到着する。W3S1はユーザからのアクセスをW3S2、W3S3の負荷状況を参照
  して振り分ける。W3S3へ撮り分けるときは、ISP1とISP2を経由する。
DISP1が障害のときは、W3S3が直接応答する。


設問1

本文中の【 a 】〜【 j 】に入れる適切な字句又は数値を答えよ。

設問2 

H君は、ネットワークの性能評価に関して上司から指摘を受け、ネットワークに問題
がない理由を考え直した。本来ならばどのように考えるのが正しいか、90字以内で述ベ
よ。

設問3 

振分けサーバ方式に関する次の問いに答えよ。

(1)現行方式から振分けサーバ兼用方式に変えると平均待ち時間はどのようになるかを
述べよ。また、その理由を、現行方式の三つのM/M/1、サーバ振分け兼用方式を
M/M/3の待ち行列モデルに当てはめて100字以内で述べよ。

(2)CPU使用率の関係が3台のW3S間でどのような状態になっていれば、期待どおり、
負荷の分散が図られたと言えるか。その判断基準を50字以内で述べよ。

(3)サーバ振分け機能を実現するに当たって、H君は振分けサーバ兼用方式の方が振分
けサーバ専用方式に比べて良いと判断した。その理由を40字以内で述べよ。

設問4 

二重化ネットワーク案(図6)で、ISP1の障害やルータ1、DNS1が故障のとき、ユ
ーザのWWWブラウザからW3S1へのアクセスがなぜISP2経由でできるようになるか。
その動作概要を120字以内で述べよ。ただし、DNSやNATの動作、及びIPアドレスの解
決を含めること。

設問5 

H君の報告書に対する上司の指摘に関して、次の問いに答えよ。

(1)上司はH君がユーザからのクレーム対策を急ぐあまり、W3S2の性能改善にとらわ
れすぎていないかと指摘しているが、ほかに考えられる問題は何か。100字以内で述
べよ。

(2)上司は図6に示す二重化ネットワーク案のRシステム運用ガイドラインの見直しを
H君に指示した。障害への対応及び負荷バランスの管理に関して新たに盛り込む事項
は何か。それぞれ40字以内で述べよ。

(3)二重化ネットワーク案(図6)と比べ、上司が示したネットワーク負荷分散案(図
7)の長所と短所を、それぞれ40字以内で述べよ

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