テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去出題問題

 平成10年 午後2 問1

最終更新日 2006/02/26
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Tomのネットワーク勉強ノート
 過去問(午後)
   テクニカルエンジニア (ネットワーク)過去問(午後)
     テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去問 平成10年 午後2 問1

問1

分散システムの設計、導入、構築に関する次の記述を読んで、設問1〜6に答えよ。

D社は東京に本社をもつ貨物運送会社であり、全国150か所に支店又は中継店をもつ。支
店は貨物の集荷、配達及び輸送などの役割をもっている。D社で取り扱っている国内航空貨
物は、各支店平均約1,000個/日である。中継店は空港に設置され、各支店から集められた
貨物を目的空港別に分類して航空機に積み込むとともに、空輸されてきた貨物を配送先エリ
ア別に分類し、支店から来る輸送車に積み込む役割をもっている。発送人から受取人までの
貨物の流れを図1に示す。


図1 貨物の流れ

D社では、このようなルートで配送される貨物の配送状況の一元的な管理ができていない。
そのため、発送人又は受取人からの貨物配送についての問合せに対して、即時に回答するこ
とができず、回答のためには支店及び中継店(以下、支店と中継店を併せて支店という)に
電話で問い合わせるなど多くの時間を要していた。このような問題点の解決と、顧客サービ
ス及び作業効率の向上を目的として、国内航空貨物向けの貨物追跡情報システムを開発する
ことにした。システムの計画から構築までを担当することになった情報システム部では、T
君を中心としたプロジェクトを設置した。T君たちはシステム化案を検討し、次の要求定義
をまとめた。

[システムの要求定義]

(1)集荷時(図1、@の箇所)、集荷貨物ごとに携帯端末で貨物情報を入力し、付属の
  プリンタでバーコードラベルを印刷して貨物に貼付する。

(2)支店での貨物の受入れ及び配送時(図1、A〜Gの箇所)、貼付されたラベルを携
  帯型バーコードリーダで読み取り、これをコンピュータに取り込み管理することによ
  って、貨物の配送状況を追跡できるようにする。

(3)貨物の配送状況は、最長1時間程度の遅れで把握できるようにする。

(4)貨物追跡は、本社と支店に設置するクライアントからできるようにする。顧客に対
  しては、WWWサーバで情報提供を行う。

(5)本社にメインサーバ、各支店にサブサーバを設置して、メインサーバとサブサーバ
  間で機能を分担させる分散システムとする。

(6)メインサーバ及びサブサーバでは、貨物追跡にかかわる各種アプリケーションプロ
  グラムを動作させる。すべての貨物情報は、メインサーバで蓄積管理する。

(7)障害によるシステム停止をできる限り少なくするために、冗長性をもった構成とす
  るが、投資費用は抑える。

(8)クライアントのパソコンは、新規に本社に20台、各支店に平均3台導入する。

I君たちは作成したシステム化案を基に、SI業者のG社に提案を求めた。G社からは、
次の提案が行われた。

[提案の骨子]

(1)本社にLANを増設して、クライアント、メインサーバ及びWWWサーバをこの
  LANに接続する。増設したLANは、インターネットに接続するとともに、既設LAN
  にも接続する。

(2)各支店にLANを導入し、クライアントとサブサーバをLANに接続する。

(3)支店LANはISDN回線によって、64kビット/秒の伝送速度で本社増設LANに接続
  する。本社に導入するISDN回線数は、各支店からの接続回数と回線保留時間を考慮
  し30回線とする。

(4)本社既設LANでは、現在172.16.0.0及び172.17.0.0のIPネットワークアドレスを利用
  し相互に接続している。今回、既設の172.17.0.0のLANはそのままとする。172.16.0.0
  のLANには8ビットのサブネットアドレスを設定し、本社の増設LANにハブを介し
  て接続する。支店LANには、172.16.x.0(xは1〜150の値)のIPネットワークアドレ
  スを割り当てる。

(5)信頼性向上のため、重要な機器類は二重化構成とする。

[提案システムのネットワーク構成]

提案システムのネットワーク構成を図2に示す。


図2 G社提案のネットワーク構成

[貨物情報の流れ]

(1)貨物情報は、各支店で携帯端末や携帯型バーコードリーダにいったん蓄積後(図1、
  @〜Gの箇所)、まとめてその支店のクライアントに転送される。クライアントに転
  送された貨物情報は、オペレータ操作によって必要に応じて付帯情報が追加された後、
  サブサーバに転送され蓄積される。

(2)サブサーバに蓄積された貨物情報は、本社のメインサーバに転送される。メインサ
  ーバに転送する方式として、サブサーバが随時転送する方式と、メインサーバが順次
  収集する方式とがあるが、比較的早く貨物情報がメインサーバのデータベースに反映
  できるように、サブサーバが随時転送する方式を採用する。

(3)メインサーバは、サブサーバから転送された貨物情報を加工してデータベースに蓄
  積する。データベースには、全支店の貨物情報が蓄積されるので、メインサーバで検
  索処理を行うことによって貨物の配送状況が追跡できる。

[二重化構成の内容]

(1)本社増設LANは、図3に示すスイッチングハブの二重化構成にして信頼性を高め
  る(スイッチングハブは、受信パケットのあて先MACアドレスを解析して、該当す
  る端末が接続されているポートだけにパケットを送信することによって、ポートごと
  に帯械を占有できる機能をもつ)。


図3 本社増設LANの二重化構成

(2)メインサーバは、信頼性を高めるために図4の二重化構成とする。二重化方式は、
  一般に【 a 】、ウォームスタンパイ、【 b 】の3方式があるが、今回はシステム
  停止時間が短く、自動切替えが行え、かつ投資費用を抑えるなどの要求条件から、ウ
  ォームスタンパイ方式を提案する。


図4 メインサーバの二重化構成

今回提案する方式では、2台のサーバで仮想のIPアドレスを共有させることによって、
メインサーバが切り替わったことをクライアントのアプリケーションプログラムに意識
させないようにできる。メインサーバとクライアントの通信、及びメインサーバの切替
えは、次の方法で行われる。

@ メインサーバと通信を行うとき、クライアントはIPアドレス【 c 】に対して、
  MACアドレスの取得を行う。
A 【 d 】サーバが応答し、クライアントはメインサーバとの通信が可能になる。
B プライマリサーバとセカンダリサーバ間は情報交換用LANで相互に接続されてお
  り、常時互いの生存を確認する。
C 【 e 】サーバに障害が発生したとき、【 f 】サーバはこれを検知してサーバが
  設置されているLAN上の機器に通知する。
Dクライアントは、メインサーバからの通知を基にクライアントがもつ【 g 】を書
  き換え、IPアドレス【 c 】とMACアドレスとの対応関係を変更する。

次に、I君たちはシステム運用管理について検討した。今回システムを導入するほと
んどの支店には、運用管理を任せることのできる担当者はいないので、情報システム部
で集中して運用管理を行う必要があった。そこで、I君たちは運用管理のためのシステ
ムの導入が必要と考え、運用管理システムの検討を行った。システムに障害が発生した
場合に障害の切分けと原因究明を行い、ハードウェア以外の障害はできる限り現地に行
かなくても修復できるよう、運用管理システムは次の三つの機能をもつことが望ましい
と判断した。

(1)ソフトウェア配布
(2)リモート操作
(3)稼動監視

これらの条件を基に、G社に運用管理システムについての提案を求めた。G社からは、
次の提案が行われた。

[運用管理システム提案内容]

運用管理システムは、図5に示すとおりメイン管理サーバとサブ管理サーバから構成
される。


図5 運用管理システム構成


図6 ソフトウェア配布の方式

メイン管理サーバは、ネットワークシステム全体の監視、操作、及びソフトウェア配
布機能をもつ。サブ管理サーバは支店内の監視及びソフトウェア配布機能をもつ。この
運用管理システムにおけるソフトウェア配布の方式には図6のように、途中のサブ管理
サーバで中継して配布先のサブ管理サーバに配布する方式Aと、直接配布先のサブ管理
サーバに配布する方式Bの二種類がある。今回のケースでは、方式Bが適していると判断
した。サブ管理サーバは、支店に導入される貨物追跡情報システムのサブサーバと同一
サーバ機で稼働させる。図5の提案構成は、方式Bに基づいている。この運用管理シス
テムの三つの機能の動作原理を、図5及び図6の方式Bを基に説明する。

(1)ソフトウェア配布

  全体管理を行うメイン管理サーバに配布対象のソフトウェアを登録すると、送り先
  として設定された管理サーバにソフトウェアが転送される。ソフトウェア配布のため
  のエージェントプログラムを稼働させたクライアントは、起動時に指定されたサブ管
  理サーバに接続して、取り込むべきソフトウェアが登録されているかどうかをチェッ
  クし、必要に応じてソフトウェアをダウンロードして自動インストールを行う。

(2)リモート操作

  メイン管理サーバからリモート操作を受けるクライアント、メインサーバ及びサブ
  サーバには、リモート操作のためのエージェントプログラムを稼働させる。これによ
  ってメイン管理サーバから、クライアント、メインサーバ及びサブサーバを、自由に
  遠隔操作できる。

(3)稼働監視

  メイン管理サーバはSNMPマネージャの機能をもち、SNMPエージェント機能を実
  装したルータスイッチングハブ、メインサーバ、サブサーバなどの機器から、MIB
  情報の収集を行い稼働状況を一元管理する。
  最後に、T君たちは導入スケジュールと体制を検討した。まず、システム稼働をお中
  元の配送時期に間に合わせるために、6月初旬にカットオーバさせることにした。ま
  た、最低1か月間の試験運用期間を確保するために、5月初旬にはシステム導入を完
  了させておきたいと考えた。稼働前の機器を、長期にわたって支店に置いておくのは
  管理上の問題があるので、支店への機器搬入は設置作業の直前とし、設置後は総合テ
  ストと訓練を兼ねて順次試験運用させていくことにした。別途立案したソフトウェア
  開発スケジュールでは、WAN経由の連動テストが開始できるのは2月末となるので、
  5月初旬までの約2か月間でシステム導入を完了させるスケジュールをまとめた。こ
  のスケジュールを基に、機器とシステムの導入・構築作業をG社に発注した。

  G社はD社の要望に基づいて、システムの導入・構築作業計画をまとめた。各支店へ
  の導入はクライアントとサーバとを併せて3〜5台なので、1支店への導入作業者は
  2名で十分である。そこで、2名単位に複数の導入チームを作り、1チーム当たり1
  支店/日の導入作業を実施させることにした。2か月間で150支店への導入を完了させ
  るためには、五つの導入チームがあれば比較的余裕をもって作業が進められるので、
  作業者を10名確保して導入グループを作った。しかし、確保できた作業者は技術力が
  低く、またこのような作業経験に乏しいので、トラブル対応などを十分に行えないこ
  とが予想され、現地での作業範図と内容を詰める必要があった。
  各支店への導入作業は導入グループが行うが、導入作業ではいろいろな問題の発生
  が予測された。そこで、予定期限内に完了させるためには導入グループを支援する体
  制作りが必要と判断し、D社のプロジェクトメンバとG社の技術者によって特別プロジ
  ェクトを作ることにした。特別プロジェクトは、T君を統括責任者、G社の技術責任者
  をリーダとして、その下に導入作業支援、機器の手配、発送などを担当する複数のグ
  ループで構成した。

  3月初旬、特別プロジェクトは本社にLANと機器の導入を行った。本社では、既設
  LANの関連機器の設定変更を行い、増設LANと接続した。本社内がすべて正常に稼働
  できるようになった後、本社に近接した一つの支店で導入作業を実施した。支店での
  導入、設置、設定作業が終了した後、本社と支店間での総合テストを行った。総合テ
  ストでは、最初に本社の既設クライアントから、サブサーバに対して接続テストを行
  ったところ、接続できないという問題が発生した。本社の同一セグメント上のほかの
  クライアントから同様のテストを行ったところ、正常に接続できるものもあった。原
  因究明のため、そのクライアントが接続されているハブの空きポートにLANアナライ
  ザを接続して、LAN上を流れるデータを測定したところ、クライアントが発行した
  ARP要求パケットに対して、送信元アドレスの異なる二つの応答パケットが返送され
  ていることが分かった。二つの応答パケットの内容から、これを発生させる原因を想
  定して関連機器の設定内容を調査したところ、一部の機器に設定間違いがあったこと
  を発見し、問題を解決することができた。

  本社と支店のすべての機器の設置と各種プログラムの設定を完了し、システム全体
  を動作させたところ、ISDN回線が接続されたままになるという問題が発生した。本社
  と支店のISDNルータの設定を確認したが、特に異常は発見できなかった。そこで、今
  度は本社のISDNルータが接続されたハブの空きポートにLANアナライザを接続し、
  ISDNルータに流れるパケットを測定した。その結果、支店あてのパケットが定期的に
  流れていることが分かった。このパケットは、メイン管理サーバから発行されていた
  ので、稼働状況監視のタイミングの見直しを行うとともに、また別の手段でネットワ
  ークの状態変化を早期に発見するための機能を働かせることで対応した。
  特別プロジェクトは、本社とそれに近接した支店へのシステム導入後、全国の支店
  への導入作葉を開始した。


設問1

貨物追跡情報システムに関する次の問いに答えよ。

(1)本システムでは貨物の配送状況が追跡できない箇所がある。追跡できないために発
生する問題点を二つ挙げ、それぞれ30字以内で述べよ。

(2)(1)の問題点をD社が独自に解決する方法を、70字以内で述べよ。

設問2 

本社増設LAN二重化構成に関する次の問いに答えよ。

(1)図3のスイッチングハブの二重化構成を、スイッチングハブ2台、ハブ1台を用い
て完成させよ。ただし、ハブの方がスイッチングハブよりも故障率が十分に低いもの
として、全体で信頼性の高い二重化構成を検討すること。

(2)(1)の構成を可能にするために、スイッチングハブがもつべき機能を答えよ。

設問3 

メインサーバの二重化構成に関する次の問いに答えよ。

(1)本文中の【 a 】〜【 g 】に入れる適切な字句を答えよ。ただし、【 c 】〜
【 f 】には、図4の用語又は記号を用いよ。

(2)メインサーバと同一セグメントに設置されたクライアントは、メインサーバからの
通知で接続先サーバの切替処理を行う。ルータを介してほかのセグメントに設置され
たクライアントでも、サーバ切替えのためにはこの処理が必要か不要か、解答欄のい
ずれかを○印で囲め。また、その理由を60字以内で述べよ。

設問4 

システム導入作業方法に関する次の問いに答えよ。

(1)全国の支店への導入作業を開始する前に、本社とそれに近接した一つの支店への導
入作業を同時期に実施した。この順序と方法で最初の導入を実施した理由を二つ挙げ、
それぞれ35字以内で述べよ。

(2)現地作業を効率的に行うために、導入機器に対して事前に実施しておくべきことを、
45字以内で述べよ。

(3)導入後直ちに試験運用に移るために、各支店のシステム利用者に対して事前に行っ
ておくべきことは何か。20字以内で述べよ。

設問5 

システムの運用管理に関する次の問いに答えよ。

(1)システム導入の初期段階で、最も必要となる運用管理システムの機能を答えよ。ま
た、その理由を60字以内で述べよ。

(2)メイン管理サーバからのソフトウェア配布は、複数のサブ管理サーバに対して同時
に行われる。D社のネットワーク構成でソフトウェア配布を行う場合、特に注意すべ
きことを35字以内で述べよ。

(3)D社の場合、ソフトウェア配布は方式Bが適しているとしたが、方式Aの利点も考
えられる。方式Aの利点を25字以内で述べよ。また、その利点を生かせるソフトウェ
ア配布方法と、それがD社に適していない理由を、それぞれ60字以内で述べよ。

設問6 

システム導入作業時に発生した問題と解決策に関する次の問いに答えよ。

(1)ISDN回線が接続されたままになった原因は、支店あてのパケットが定期的に流れ
たからである。このパケットはどのような機能をもっているか。また、この問題を解
決するためにどのような対応をしたと想定できるか。それぞれ30字以内で述べよ。

(2)ARP要求パケットに対する二つの応答は、プロキシARP機能が発行したものであ
った。これが発生した原因を30字以内で述べよ。

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